2010年11月7日日曜日

涙腺を刺激するドラマ・・・NHK連続テレビ小説「てっぱん」

NHK連続テレビ小説「てっぱん」が面白い。毎回、涙腺を刺激するシーンが盛り込まれ、いつの間にか感情移入している。21世紀に入り、作り手が同世代や下の世代になりつつある中、丁寧な作りが伝わってきて好感が持てる。

尾道の景色、坂道や緑、水道、船。そして人情。こうした贅沢な背景を味方に、ドラマは描かれている。大阪に舞台が移っても、「尾道風味」が利いている。

そして主軸は家族や人のつながりに置かれている。養女だったことが分かった主人公あかり(瀧本美織)。ともすれば叫びわめく、迷惑な主人公にとどまりがちだが、感情を抑えて演技するあたり実力の高さを見せている。新人女優の登竜門としてのNHK朝ドラの面目躍如といったところだ。ふっと見せる翳も強さで跳ね返す。ご都合主義に陥りがちであっても、あかりのキャラクターとして流していけるように映っている。

白眉は富司純子。キャラクターにないような毒をはくきっぷの良さと、娘と分かり合えないまま生き別れた親の後悔や哀しさを表情で演じ、ドラマを引き締めている。嫌味なキャラクターでは見る者を負の感情に流し、裏腹な感情を示すときには同情を誘う。孫と暮らし始めて気持ちがやわらかくなっていく過程をしぐさや顔つきで表すところに女優としての力強さを見せている。彼女の代表作になるはずだ。

芸能事務所の力関係やバーターの色が濃いと、それは視聴者に伝わってくるものだ。製作者側が視聴者に対し「これは面白いだろう」と半ば押し付けがましい演出を始めても、それは悪ふざけにしかならない。大手事務所におもねった配役や主題歌、努力を感じない演技。そういうものがNHK朝ドラにさえ目立ってきていたが、今回の「てっぱん」は毛色がやや違うようにも映る。安田成美のNHK朝ドラ復帰、尾道出身の大林宣彦監督作品の常連だった尾美としのりの出演。そしてともさかりえが期待以上の好演を見せている。

人のつながりのいとおしさが描かれている「てっぱん」。この調子でおもねらず進んで欲しいドラマが始まっている。